盤石の構えで台湾総統選に臨む民進党

   来年2020年1月11日(土)、台湾では第7回目の総統民選が行われる(第1回目は1996年で、李登輝・連戦ペアが勝利)。 与党・民進党は、今回、執権党でありながら、初めて党内予備選(世論調査で候補者を決定)を行った。2004年の総統選挙時、陳水扁総統が再選に臨む際、予備選は実施されていない。
 ところが、次期選挙に向けて、今年(2019年)、民進党は党内予備選を敢行した。それは、蔡英文総統があまりにも不人気だったからである。危機感を覚えた前行政院長の頼清徳(元台南市長)が予備選に立候補した。もし蔡総統に人気があれば、頼前院長は予備選に出馬しなかっただろう。
 当初、今年4月、民進党は予備選の実施を予定していた。党内が割れる事を恐れた民進党幹部は、予備選を5月に延期した。更に、ずるずると6月まで延長している。
 おそらく、党内予備選が5月までに行われていたなら、頼清徳前行政院長が蔡総統に圧勝していたはずである。ところが、6月に入ると、急に風向きが変わった。劣勢だった蔡総統が、頼前院長を大差で逆転勝利したのである。
 そのきっかけとなったのが、香港における「逃亡犯条例改正案」に反対する大規模なデモ(「反送中」デモ)である。香港政府に対する「民主化」運動が、台湾島内の政治状況を一変させたのだった。
 それは、2014年9月に始まった香港の「雨傘革命」(民主的な行政長官選挙実施を求める運動)が、同年11月の台湾統一地方選挙に多大な影響を与えた(民進党の大勝)のと軌を一にする。
 「1国2制度」下にある香港で「民主化」を求める大規模なデモが起こると、中国共産党から「1国2制度」を迫られている台湾では、習近平政権への反発が強くなる。
 そして、中国と近い関係にある国民党(親民党も含む)への支持が減少し、反対に、中国と距離を置く民進党への支持が増大する。有権者は、民進党と共に島内でまとまり、中国共産党に対抗しようという気運が高まるのである。
 それを、“台湾と香港「民主化」のシンクロ”と呼んでおこう。
 さて、頼清徳前行政院長は、予備選で敗れた。そのため、蔡総統は頼前院長ではなく、別の副総統候補を指名するのではないかと思われた。
 ところが、11月17日、蔡総統と頼前院長が会見し、2人が総統・副総統候補としてペアを組む事と発表した。民進党としては、これ以上ないベストの組み合わせとなっている。
 一方、韓国瑜高雄市長は国民党内の予備選で鴻海(ホンハイ)の郭台銘を破り、正式な同党総統候補となった。今年7月頃まで、韓市長は蔡総統を凌ぐ支持率を得ていた。
 ところが、香港で「反送中」運動が激しくなると、韓国瑜市長の支持率は、徐々に落ちて行く。そして、今年10月の時点では、韓市長は蔡総統に10ポイント以上の差をつけられている。
 その韓総統候補だが、副総統候補に無所属の張善政元行政院長を指名した。張善政は、馬英九政権時代(2008年5月〜16年5月)の最期、行政院長を3ヶ月余り務めている。
 第3の候補、親民党の宋楚瑜主席は、今度で総統選5回目の挑戦である。2000年、宋楚瑜は無所属で総統選に出馬し、善戦した。だが、民進党陳水扁に敗れている。2004年、親民党の宋楚瑜(副総統候補)は国民党の連戦(総統候補)と組んで出馬した。だが、連戦-宋楚瑜ペアは、陳水扁呂秀蓮ペアに3万票弱で敗れ去っている。
 その後、宋楚瑜は2012年、2016年の総統選にも出馬した。それは、親民党の立法委員選挙の票を伸ばすための方策だったのである。
 今回も、また宋楚瑜主席自らが出馬する。余湘という女性を副総統候補として指名した。
 なお、一時、王金平前立法院長(国民党)が、親民党からの総統選出馬を模索した。だが、上手く行かず、王前院長は、出馬を断念している。
 「喜楽島連盟」(福音派の台湾基督長老教会が中心)に推されて呂秀蓮元副総統(陳水扁総統時代)も立候補する構えを見せていた。
 ところが、呂元副総統は、28万人余りの署名を集める事ができず、次期総統選出馬を断念している。陳水扁元総統が、呂秀蓮元副総統の総統選への出馬を「時期、すでに遅し」と指摘していたが、まさに、その通りの結末となった。
 今後、台湾海峡両岸で、突発的な事が起こらない限り、蔡英文総統の再選は、ほぼ間違いない。だが、蔡総統の再選が、香港の「反送中」運動のお陰とは、今一つ腑に落ちない話ではないか。(2019年11月22日)