元社員拘束で暴露された華為のブラックぶり

 現在、中国では奇妙な数字の羅列「985、996、035、251、404」が注目されている。これは、華為技術有限公司(従業員18万人以上の大手電子機器メーカー。以下、ファーウェイ)を揶揄した数字である。

 第1に、985とは、エリート大学を意味する。1998年5月、当時の江沢民政権は985工程(プロジェクト)を立ち上げた。そして、中国の将来を担う重点校を定めている。
 第2に、996とは、就業時間が午前9時から午後9時までで、週6日働かなければならない。
 第3に、035とは、35歳前後に、退職を余儀なくされる。
 第4に、251とは、元社員が刑務所で拘束された日数を指す。
 第5に、404とは、ネットで元社員の事件を調べようとしても、内容が削除されているため検索できない。
 すでに報道されている通り、昨2018年12月16日、同社の元エンジニア、李洪元(42歳)が警察に拘束された。翌19年1月22日、李はついに逮捕される事態に至った。
 李洪元はファーウェイで13年働いている。離職する際、ファーウェイ幹部と補償金と退職金の交渉を行った(退職金は30万元<約470万円>)。すると、ファーウェイ管理者は「李洪元が会社から補償金と退職金を騙して巻き上げた」として警察に訴えたのである。
 結局、李洪元は警察に251日拘束されている。だが、深圳検察院は証拠不十分で、李を起訴できずに釈放した。
 実は、ファーウェイは、李洪元以外、少なくても20人以上の元社員に罪を被せ、迫害したという事実が暴露された。その中には、2年の有期刑に処された者もいるという。
 たまたま、李は録音テープで当時の状況を記録していた。そのため、起訴を逃れている(その後、李は、今度は国に拘留期間中の賠償金<10万元〔約156万円〕>を求めた。そのせいか、12月9日、李は深圳検察院に恐喝罪等で起訴された)。
 ファーウェイは従業員持株制による民間企業と謳っているが、実態はブラック企業だったのである。ネットユーザーらはこのスキャンダルを知り、反発した。そして、同社は企業イメージを大きく損ねている。
 1987年、ファーウェイは人民解放軍で働いていた任正非(CEO)が設立した。本社は深圳市竜崗区にある。よく知られているように、同社は中国ネット企業大手BATH(百度・アリババ・テンセント・ファーウェイ)の一角をなす。
 ファーウェイは、5G等の先端技術を持ち、米国の牙城を脅かしている。おそらく北京政府の支援を受けている事は間違いないだろう。
 他方、同社は、スマホ等の電子機器端末にスパイウェアーを忍ばせたと疑われている。そのため、米国は同社に対し厳しく対応している。
 さて、米国在住の評論家、陳破空は『ラジオ・フリー・アジア』「(仮訳)孟晩舟のイメージが崩れ、中国共産党の“愛国主義”という絶対ブランドが失効」(2019年12月10日付)の中で、以下のように指摘した。
 昨年12月、カナダ当局は、米国の要請に従い、ファーウェイの副会長兼CFOの孟晩舟を拘束した。
 その際、中国ネットユーザーらは、北京の論調に従い、孟晩舟を「民族英雄」と称え、ファーウェイを「民族ブランド」と奉った。そして、彼らは、孟逮捕は「米帝国主義」による弾圧だと激しく非難している。
 その後まもなく、孟は、勾留場から保釈金を支払い保釈され、監視付きながら、カナダの豪華な自宅へ戻った。
 近頃、孟晩舟はカナダで拘束されてから1年経ち、自らの気持ちを公開した。それは、自分を支えてくれた周囲の人々やネットユーザーに礼を言うためだった。だが、これが思わぬスキャンダルとなる。
 多くのネットユーザーは、孟晩舟が美しくファッショナブルなドレスで自由に街を闊歩し、また、駐カナダ中国大使から慇懃なる慰問を受ける姿を見て、反発したのである。
 かつて孟晩舟は、「ファーウェイのプリンセス」というイメージを持っていたが、それは完全に崩れ去った。
 「李洪元事件」と孟のスキャンダルでファーウェイのイメージは地に堕ちたと言っても過言ではない。

中国の「一帯一路」構想と「魯班工坊」

   中国共産党は「一帯一路」構想で、米国の世界覇権に挑戦している観がある。

 同構想は、表面的にはアジア・アフリカ・ヨーロッパ諸国と経済的「ウィン・ウィン」関係を目指す。しかし、その実態には大きな疑問符が付く。なぜなら、「一帯一路」に参加した国々は、習近平政権の「借金漬け外交」で苦悩しているからである。
 一部の国では、すでに借款の返済が滞り、港湾を中国に乗っ取られている。代表的なのは、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港あたりではないか。これらの港は北京による「真珠の首飾り」作戦(インド包囲網の一環)に使用される。
 このように、中国にとって「一帯一路」構想は、軍事的な意義が大きい。けれども、同国に経済的メリットはあまり見当たらない。せいぜい「人民元圏」を拡大するに役立つ程度だろう。
 それにもかかわらず、北京が「一帯一路」構想を推進するのは、「新植民地主義」政策のためかもしれない。
 「一帯一路」構想と平行して、中国共産党は語学教育機関である「孔子学院」を世界中の教育機関と連携して創設した。
 「孔子学院」は、表向き、各国の人々に中国語を教える。しかし、その中で、共産党イデオロギーまで学生達に刷り込もうとした。そのため、各国は「孔子学院」に対し警戒感を抱き始めた。
 さて、「一帯一路」構想の中で新しく出現したのは「魯班工坊」である。魯班とは、春秋戦国時代に出た“匠”であり発明家である。中国では傑出した偉人として崇められている。
 「魯班工坊」では、中国側がアジア・アフリカ・ヨーロッパ諸国に技術を教える。「匠の技」を相手国に伝授する。すでに、タイやエジプト等では北京によって「魯班工坊」が創設された(ヨーロッパ諸国の場合、中国料理等を教える)。
 中国が相手国に対し、あくまでも“善意”で教え込むなら何ら問題はない。しかし、北京が相手国から何の見返りを求めず、無償で技術支援するのは極めて考えにくい。習近平政権は、「魯班工坊」を梃子にして、途上国に食い込む算段ではないか。
 だとすれば、「魯班工坊」は、あくまでも中国共産党による「一帯一路」構想実現のための手段に過ぎないだろう。
 翻って、我が国は、今のところ、中国共産党の「一帯一路」構想に参加していない。それにもかかわらず、日本国内には「一帯一路」構想を支援する組織が存在する。
 おそらく、このような組織は、中国共産党との関係が深いと思われる。同党からすると、かかる団体は利用価値が高いのかもしれない。
 ところが、このような団体は、自らが北京に使われているという認識がほとんどないように見える。それどころか「日中友好」という耳触りの良いスローガンの下、自ら進んで「一帯一路」構想に手を貸そうとしている。結果的に、中国共産党の「新植民地主義」に加担しているのではないか。
 目下、世界第2位の経済大国、中国は、世界第1位の経済大国、米国との熾烈な「貿易戦争」を戦っている(ただし、“熱戦”にはなりにくく、たぶん実弾が飛び交う事もないだろう)。そのため、中国共産党は、世界第3位の経済大国、日本や第4位のドイツに秋波を送る。
 実際、中国では、なぜか今頃になって、日本アニメ(ジブリ作品)が上映されている。『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』などが中国人に受けているという。北京は、これらの作品をなぜ今更、公開するのか。習政権の、“日独に近づき、米国との戦いに勝利したい”という思惑が透けて見える。
 おそらく、北京政府は、経済的苦境を何とか乗り切るため、単に我が国を活用しているに過ぎないのではないか。中国共産党の“掌返し”はよく知られている。現在、同党は「親日」のポーズを取っているが、また、いつ再び「反日」に舵を切るのかわからない。
 既述の如く、その北京の戦略にまんまと嵌っている日本人が少なからず存在する。
 もし、彼ら日本人がしっかりと『孫子』を熟読すれば、習近平政権が何を考えているのか、あるいは、何をしたいのか、おおよその見当がつくだろう。
 結局、一部の日本人が『孫子』を読まないゆえ、中国共産党に利用されている観がある。
 『孫子』こそ、中国人の行動原理を示すと言っても過言ではない。

中国共産党の任期制が復活か?

 今年(2019年)8月22日、『人民日報』関連のSNSで、かつて鄧小平が党幹部の「終身制」廃止決定を行ったとするツイートが現れた。鄧は、将来、二度と毛沢東主席のような“独裁者”が出現しないよう考慮し、実行したのである(周知の如く、1966年~76年「文化大革命」という名の毛沢東による“奪権闘争”で、多くの党幹部や人民が悲惨な被害を蒙った)。

 おそらく人民日報出版社の誰かが、習近平主席の「終身制」を揶揄したのではないだろうか。だが、そのツイートはすぐに削除された。そのため、「終身制」への批判はこれで終わりかと思われた。
 ところが、翌9月18日付『求是』(ウェブ上では同月15日発表)は、2014年9月5日、習近平主席の全国人民代表大会成立60周年大会祝賀式典での講話を再掲載したのである。
 習主席は、その中で「我々は実際に存在した指導的幹部の終身制を廃止し、指導的幹部の任期制度を普遍的に導入し、国家機関と指導部の秩序ある交代を実現した」と語っていた。
 それにもかかわらず、昨春、習近平政権は国家主席の任期制を撤廃する憲法改正を行っている。そして、事実上、主席の「終身制」を“復活”させた。おそらく習主席が掲げる「中国の夢」(中華民族の偉大なる復興)を、自らが達成させるためではないか。
 けれども、突然、中国共産党中央委員会が主管する『求是』に、この講話が再び掲載された。その理由として、いくつかの可能性が考えられよう。
 第1に、「習近平派」が(習主席のやり方に不満を持つ)「反習近平派」に包囲され、二進も三進も行かなくなった。そこで、習近平主席が自ら「終身制」に終止符を打ち、再び任期制を導入する。そのための布石なのかもしれない(ただ、この場合、「習近平派」がまだ「反習近平派」に完全に白旗を揚げた訳ではない)。
 2012年秋、習近平主席が登場して以来、
 (1)中国経済は悪化の一途を辿る(投資・消費が右肩下がり)
 (2) 中央政府財政赤字は更に膨らむ(GDPの300%~350%)
 (3) 「米中貿易戦争」では、体力のない北京が苦戦を強いられている
 (4)一時、強かった人民元も、今では下落傾向にある(現時点で1米ドルが7.1元前後)
 (5)不動産バブルが、いつ弾けてもおかしくはない
 (6)「一帯一路」での“バラマキ政策”では、相手国から巨額の借款を回収できない(相手国の港湾を租借しても、軍事的には意味があるが、経済的には疑問符が付く) 
 (7)香港問題(「逃亡犯条例」改正を巡り、大規模なデモが発生)も未だに解決できない
 (8)中国全土に蔓延した「アフリカ豚コレラ」は一向に収束せず、豚肉をはじめ羊肉・牛肉・鶏肉が高騰している
 (9)約10年前に完成した三峡ダムが湾曲している恐れがあり、いつ決壊するかわからない等、北京政府がする事が必ずしも上手く行っていない。
 第2に、「習近平派」が完全に「反習近平派」から追い詰められ、『求是』でその勝利を中国内外に宣告した。それが、習講話の再掲載だったのかもしれない。「習近平派」が「反習近平派」に対し、完全に白旗を揚げた公算もある。
 だとすれば、近い将来、「宮廷クーデター」が起こり、習近平主席が失脚するというシナリオもあり得るのではないか。その場合、誰が後継者となるか。常識的には、党内序列ナンバー2の李克強首相が主席になる公算が高い。しかし、クーデターが発生すれば、誰が後継者としてトップに躍り出るかは予測不能だろう。
 第3に、未だ「習近平派」が党内をほぼ掌握し、これから「反習近平派」へ反撃する準備を整えているのかもしれない。
 『求是』に、習近平主席の講話が再掲載されたのは、「習近平派」が故意に「反習近平派」を油断させるための“罠”なのではないか。
 ひょっとして、「習近平派」は、何か奥の手を使って、「反習近平派」を徹底して打ちのめそうとしているのもしれない。「習近平派」は虎視眈々と、その機会を窺っているとも考えられよう。しかし、その可能性は極めて低い。(2019年9月27日)
 

今日の香港は明日の台湾か?

中国では、1949年の建国以来、末尾に9の付く年は政治的大変動のある年と考えられてきた。歴史を振り返れば、そうとも言えよう。 今年(2019年)もやはり政治的大変動に見舞われた。中国共産党は、香港の「逃亡犯条例」改正反対運動(通称、「反送中」運動)の制圧に手こずっている。
 周知の如く、すでに深圳には多数の装甲車と数千人単位の武装警察がいつでも香港へ南下できるよう待機している。ただ、中央政府による香港デモの武力鎮圧は、香港という中国にとって“金の卵”を産む鶏を殺す事になるだろう(以前と比べ、香港の重要性は下がっているが、現在もなお、一定の地位を保つ)。
 もし、中国共産党が香港で「第2次天安門事件」を起こせば、欧米による厳しい経済制裁で、本当に習近平政権は瓦解するかもしれない。香港の「反送中」運動は、中国共産党を揺るがす深刻な事態となっている。
 本来ならば、香港は2047年まで「1国2制度」を享受できるはずであった。ところが、近年、中国共産党は政治的に干渉し、香港は「1国1.5制度」へ転落した。それどころか、今では、習近平政権内で、香港を中央政府の「直轄市」とする案も浮上しているという。
 さて、よく「今日の香港は明日の台湾」と言われる。けれども、香港と台湾では、置かれた状況があまりにも異なる。従って、このスローガンには違和感を覚える人が少なくないのではないか。
 第1に、台湾では、長と名の付くリーダーはトップの総統から末端は、村の里長に至るまで、すべて選挙で選出される。確かに、台湾は一部中国共産党の影響(国民党系の政治家やマスメディア)を受けている。だが、実際には台湾人が台湾を統治する。
 ところが、香港は完全な民主主義体制下にはない。
 香港トップの行政長官を、未だに「選挙委員会」(主に「建制派」=「親中派」)1200人が選んでいる。
 また、香港立法会でも、完全な「1人1票」制ではない。主に「建制派」の職能団体が全70議席のうち30議席を占め、同団体の中で選ばれている。そのため、立法会では依然、「建制派」が多数を占める。
 もし香港で「1人1票」制が採用されれば、立法会で「民主派」が多数派となるに違いない。
 つまり、香港では「港人治港」ではなく、中国共産党の間接統治が行われていると言えよう。
 第2に、香港には、約6000人と言われる中国人民解放軍香港駐留部隊が常駐する。
 しかし、台湾には中国人民解放軍は存在しない。それどころか、米国在台協会(AIT)という名の事実上の米国大使館があり、かつ、その中には、米軍人が常駐(2005年頃から)する。
 一部の論者は、「今日の香港は明日の台湾」というスローガンを真に受けて、香港の次は台湾が危険であるとの論陣を張っている。
 その危惧は分からないでもない。だが、台湾の民主主義は米国が必ず防衛するだろう。
 米国の「台湾関係法」の神髄とは、同国が台湾人の生命と財産を守る点にある。つまり、米国にとって、台湾は同国の「準州」(グアムや<北マリアナ諸島の>サイパン)と同様の存在なのである。この点は、強調してもし過ぎる事はない。
 また、一部の論者は、中国共産党が近い将来、台湾に攻撃を仕掛けるのではないかと憂慮する。
 けれども、その可能性はほぼゼロに近いのでないか。それは『孫子』を読めば、よくわかるだろう。
 孫子は「相手を知り、己れを知れば百戦不敗である」という。しかし、孫子はその前に「戦わずして勝つ」事をベストとしている。戦争をして「百戦百勝」しても、それはあくまでもセカンドベストである。
 更に、孫子は勝つ見込みのない戦争は絶対するな、と諌めている。
 仮に、中国軍と台湾軍が、1対1で戦った場合、どうなるだろうか。中国が台湾へ核使用しないと仮定すれば、その勝敗の帰趨は不明である。
 ましてや、台湾軍のバックには世界最強の米軍が控えている。米軍が中台戦争に参戦するならば、当然、我が自衛隊も出撃するだろう。この場合、日米台対中国、3対1の戦いである。
 ひょっとすると、インド軍やオーストラリア軍、それに英仏軍も日米台に加担する可能性がある(7対1の戦い)。
 ロシアは、中国軍を後方支援はするかもしれない。だが、ロシア軍が実際の戦闘には出撃しない公算の方が大きいのではないか。
 中国共産党最高幹部や中国人民解放軍トップが以上の情勢を知らないはずはない。
 中国人には孫子の兵法こそ“バイブル”であり、行動原理の基本である。中国共産党が「日米台vs.中国」戦争、あるいは、「日米台印豪英仏vs.中国」戦争という“必敗”の戦いをするはずはないだろう。

自宅で縊死した京劇の名花

今年(2019年)12月5日午前10頃、京劇(北京オペラ)の名花と謳われた姜亦珊が、北京市豊台区の自宅で首吊り自殺をした。享年41歳である。姜は国家一級女優の称号を持ち、かつ、北京市政治協商会議常務委員という肩書も持っていた。

姜亦珊の突然の死に、京劇界では衝撃が走った。姜は、1週間前の11月29日夜、河北省石家荘市で公演(演目は「大保国・探皇陵・二進宮」、略称「大探二」)を行ったばかりである。

姜亦珊は、幼い頃から京劇を学んだ。そして、1996年、瀋陽芸術学校京劇科を卒業している。同年、瀋陽京劇院に入ったが、2000年、天津京劇院へ、2006年、北京京劇院へ移っている。薛亜萍や梅葆玖といった名優に師事した。

姜亦珊の代表作としては、「秦香蓮」、「状元媒」、「望江亭」、「春秋配」、「白蛇伝」、「貴妃醉酒」、「玉堂春」等がある。そして、姜は「中国演劇梅花賞」や「中国ゴールデンディスク賞」等を受賞している。

姜亦珊は明るい性格で、決して自殺をするような人間ではなかったという。また、姜には11歳の息子、柳知序がいる。

柳は8歳の時、母親と一緒にCCTV「戯曲」という番組に出演した。柳は、姜亦珊が歌っている間には弦楽器を奏で、また、母親と共に京劇の一部を披露している。

姜亦珊がその大切な息子を残して死ぬとは、よほどの大事件に遭遇したに違いない。

姜亦珊は、初め軍人と結婚したという。姜の2番目の夫、孟凡良(52歳。江蘇省徐州豊県出身)は、中国国務院国有資産監督管理委員会の幹部教育訓練センター副主任だった。

姜亦珊が自殺する直前の12月3日、孟凡良は重慶市当局に重大な規律違反・違法行為容疑で調査された(これで孟の失脚はほぼ確実となった)。

実は、京劇界には、大御所の袁慧琴という有名女優がいる。昨年1月、国家劇院副院長に任命されて以降、袁は習近平主席の講話に従って、共産主義イデオロギー色の強い演劇「紅軍物語-ハーフキルト(仮訳)-」のリハーサルを行った。

中国共産党は、結党以来、文芸をその宣伝手段と位置付けて来た。近年、演劇界では、「文化大革命」期、毛沢東夫人、江青が文芸を“左”(日本語の“右”に相当)へ旋回させたのと同様に、再び共産主義イデオロギー色の強い演劇のリハーサルが頻繁に行われている(ちなみに、2015年、習近平夫人、彭麗媛は歌劇「白毛女」を指導し、全国巡演した)。

袁慧琴の夫、王立民は、中国社科院金融研究所党委員会書記兼副所長だった。王立民はかつて学術誌『哲学研究』や『世界哲学』に幾つもの文章を発表している。その中には、「習近平総書記の国政統治哲学思想」がある。だから、王は、香港メディアから「習近平哲学思想」の権威と見なされた。

王立民も、12月4日、当局に重大な規律違反・違法行為容疑で調査された。

ひょっとして、姜亦珊の死は、夫の孟凡良の失脚、及び、袁の夫、王立民の失脚と何か関係があるのかもしれない。

ただ、姜はなぜ自殺という道を選んだのか謎である。姜亦珊は、孟凡良・王立民の疑惑に関して、色々知っていたのかもしれない。そこで、当局の調査を逃れるため、縊死という手段で墓場までそれを持って行ったとも考えられよう。

一般に、中国共産党の重大な規律違反・違法行為とは、贈収賄や愛人を作る事を指す。ただし、共産党幹部はほとんど全部が、重大な規律違反を行っていると言っても過言ではない。

収賄をしなければ、昇進は不可能だからである。下級官僚から賄賂を受け取り、上級官僚にそれを献上する。これを繰り返して、ようやく党幹部にのし上がる。

しかし、今の中国共産党に、林則徐(19世紀半ばに活躍した欽差大臣。中国官僚史上、最もクリーンだったと言われる)を求めても、「木によりて魚を求む」が如く、所詮、無理な話ではないか。

ところで、もし孟凡良や王立民が「習近平派閥」でなければ、いつか失脚する日がやって来るという事態は予想できた(たとえ「習派閥」に属していても、習主席を怒らせれば、失脚につながるかもしれない)。

とりわけ、孟・王が「上海閥」(「江沢民系」)ならば、習政権のターゲットになる。官僚の失脚は、しばしば上層部の政治的思惑や力関係で決まる事が多い。

そのために、家族や親戚は運命が左右されたり、時には犠牲になったりする(かつての中国では「誅連九族」が有名。自らが重大な罪を犯すと、高祖父、曾祖父、祖父、父、本人、子、孫、曾孫、玄孫まで罰せられた)。ある意味、姜亦珊は、その犠牲者の1人なのかもしれない。

 

 

北京と香港市民の戦いは“文明の衝突”か?

 今年(2019年)6月、香港では「逃亡犯条例」改正案をめぐり、大規模な改正案反対デモが起きた。香港政府がその改正案をなかなか撤回しなかったので、デモは過激化した(9月、同政府がようやく改正案を撤回)。更に、デモ隊による香港政府に対する要求がエスカレートした。「民主化」(1人1票の普通選挙)の要求を掲げたのである。 (香港政府はともかく)中国政府としては、香港での普通選挙実施は許容できない。香港政府及び立法会で普通選挙が行われれば、必ずや「民主派」代表が行政長官となり、「民主派」が立法会で多数を獲得するだろう。
 すると、「1国2制度」下とはいえ、北京政府のコントロールが効かない状態に陥る。中国共産党はそれを1番恐れているのではないか。
 さて、北京政府は、依然、「近代」的価値観である自由・民主・人権を尊重していない。それどころか、習近平政権はそれらを毛嫌いしている。実際、「前近代」価値観である力(警察力・軍事力)による統治を行っている。他方、香港市民はすでに「近代化」し、自由・民主・人権を重視する。
 つまり、「前近代」のままの北京政府と(「1国2制度」下にあるとはいえ)「近代化」した香港市民との戦いは、まさに“文明の衝突”と言っても過言ではないだろう。
 19世紀、「アヘン戦争」及び「第2次アヘン戦争」の結果、英国は清国から香港島と九龍市街地を永久“割譲”された。
 その後、日清戦争後、英国は新界も清国から永久“割譲”されていれば、現在のような香港問題は起きていなかった。ところが、当時、他の西欧列強の厳しい目が光っていたので、英国は新界を割譲できず、“99年租借”したにとどまる。
 爾来、香港(香港島・九龍市街地・新界)は英国の主権下にあった。そのため、香港は好むと好まざると「近代化」の道を歩んだ。その過程で、香港人は、自由・民主主義・人権尊重等を学んだのである。
 このような香港人が簡単に中国政府の押し付ける「前近代」に戻れるだろうか。香港の“悲劇”は、「近代化」されたにもかかわらず、「前近代」へ引き戻される点にある。我々はそこを看過すべきではないだろう。
 乱暴な言い方かもしれないが、日本人が、今更、江戸時代に戻れないのと同じである。
 一方、中国は、清朝時代、西欧列強による完全な植民地支配は行われなかった。逆説的だが、これこそが、中国の“悲劇”である。
 植民地統治は、支配者が被支配者に対し、搾取・収奪を行っていたので、しばしば「悪」と捉えられる。確かに、植民地支配は“美化”されてはならない。だからと言って、必ずしも植民地統治がすべて悪かったかと言えば、必ずしもそうとは限らないだろう。
 例えば、インドは、長い間、英国からの過酷な支配を受けた。けれども、同国は、英国の統治を受けたがゆえに、大多数のインド人が「民主化」の重要性を理解したと考えられよう。したがって、第2次大戦後、インドが独立した暁に、同国は民主的制度を確立した。
 ところが、中国の場合、(我が国を含む)西欧列強が、単独ではなく、各国がバラバラに、中国の一部ずつを統治した。そのため、西欧列強の中国統治は、すべて中途半端に終わった。したがって、同国には「近代化」がほとんど根付かなかったのである。
 無論、それだけではないだろう。中国共産党は、「民主集中制」という美名の下、基層レベルしか選挙を行っていない(それらの選挙すら、共産党が選挙干渉している)。「民主集中制」とは聞こえが良いが、共産党“独裁”の単なる言い換えに過ぎない。真の民主主義とは程遠い。
 このような中国政府が、(香港返還前に作られた)『香港基本法』というミニ憲法を無視して、香港政府に「緊急状況規則条例」(「緊急法」)を発動させた。これは、事実上の“戒厳令”である。香港行政長官が立法会の承認を得ずして、どんな法律も発布できる(第2次大戦後、英国は「緊急法」を3度発動した。だが、香港返還後は、初めてである。今回、違憲の可能性が大きい)。
 その手始めが「覆面禁止法」だった。マスクを着用して、街を歩いてはならないという法律である。違反者は、2万5千香港ドル(約34万円)以下の罰金や1年以下の禁固刑に処せられる。
 それに対し、香港人、特に香港の若者は、死を賭して抗議デモに参加している。我々も彼らの覚悟を見習うべきかもしれない。
 最後に、「覆面禁止法」が施行される直前の10月4日、デモ隊が各地で民主的な「香港臨時政府」樹立を宣言した事を付しておこう。果たして、今後、「臨時政府」が機能するようになるかどうか見守りたい。(2019年10月23日)

中国共産党第19期4中全会での人事

 中国共産党は、約1年8ヶ月も重要会議である「4中全会」を開催できなかった。それは、習近平主席が(1)中国経済の悪化、(2)激化する「米中貿易戦争」、(3)収束しない香港問題、等で「反習近平派」に猛攻撃を受けるからである。同会議では、(4)人事問題も重要テーマとなるだろう。 今回は、(1)中国経済の悪化と(4)人事問題を取り上げてみたい。
 昨2018年12月、中国人民大学教授の向松祚が、同年の中国経済成長は良くて1.67%、別の資料を使うとマイナス成長だと喝破した。
 今年(2019年)10月18日、中国政府は第3四半期(7月~9月)のGDP成長率は6.0%だと発表している。それに対し、向松祚は、次のように指摘した。
 まず、今年5月から9月にかけての全国の財政收入は、一貫してマイナス成長である。
 次に、企業だが、その利潤は急激に減っているか、または赤字となっている。
 そして、人民の收入も急速には増えず、政府の個人所得税収入も、今年の前四半期(4月~6月)と比べて30%近くも下がっている。
 こんな状態で、GDP6%伸長というのは、明らかに成長率を高く見積もっているのではないか。
 向松祚は、以上のように説明した。極めて妥当な推論ではないだろうか。
 話は横道にそれるが、ドイツはEU内で経済的に1人勝ちの様相を帯びていた。よく知られているように、ドイツは中国と密接な経済関係にある。
 ドイツ経済は、昨2018年第3四半期に、マイナス0.1%を記録した。更に、今年第2四半期には、やはりマイナス0.1%を記録している。
 ドイツの経済の低迷は、様々な原因が考えられるが、おそらく中国経済の落ち込みと深い関係があるかもしれない。
 閑話休題。かねてより、我々は、中国経済の悪化は(必ずしも「米中貿易戦争」だけではなく)「混合所有制」に起因すると主張してきた。
 基本的に、習近平政権は国有企業救済のため、民間企業との合併を行っている。これでは、民間企業のトップはやる気を失うだろう。元来、民間だった企業が「親方日の丸」ならぬ「親方五星紅旗」となる。「親方五星紅旗」企業では、自由な発想が生まれないし、合理的な経営ができないだろう。また、企業内で、合理化へのインセンティブが働かなくなる。
 仮に「親方五星紅旗」企業が赤字になっても、地方政府がそれを補填してくれる。地方政府がその赤字を補填できなければ、最終的に中央政府が補填するだろう。
 ちなみに、中央政府財政赤字は、国有企業や地方政府の債務を併せれば、300%~350%もあると言われる。
 ところで、「4中全会」の人事では、「習近平人脈」である重慶市トップ、陳敏爾が重用される可能性がある(ただし、その前提として、習近平主席自身が、現在の地位を保つ必要があるだろう)。
 今年10月15日、陳敏爾は韓正(政治局常務委員)と共に、シンガポールを訪問した。
 陳敏爾は、同国の副総理、王瑞杰(Heng Swee Keat)と中国・シンガポール2国間協力合同委員会(JCBC)第15回会議の共同開催を担った。
 当日、中国とシンガポールは、アップグレードされた2ヵ国間自由貿易協定の正式発効を宣言している。その夜、王瑞杰は、陳敏爾が催した晩餐会に出席した。
 実は、58歳の王瑞杰は“第4代”を自称している。
 シンガポールは、建国以来、李光耀(リー・クワンユー)、呉作棟(ゴー・チョクトン)、李顕龍(リー・シェンロン=李光耀の息子)の3人の総理を輩出した。そして、王瑞杰は、第4番目の次期総理と目されている。
 王瑞杰(58歳)と陳敏爾(59歳)は、ほぼ同じ世代なので、その緊密な交流は見逃せないだろう。
 かつて、中国では胡春華孫政才が「第6世代」のホープと見なされていた。けれども、2017年7月、孫政才は、突然、失脚した。
 「共青団」系の胡春華(国務院副総理)は、未だに何とか生き残っている。だが、胡春華は、昨年8月から中国大陸で流行り出した「アフリカ豚コレラ」(ASF)と格闘している。ASFは単なる「豚コレラ」と異なり、豚の致死率ほぼ100%で、未だワクチンがない。
 胡春華は、この対応を任されているようだが、ASF収束への道のりは余りにも遠い。スペインではASFの収束に35年かかっている。したがって、現時点は、胡春華中国共産党のトップになれる公算は小さいかもしれない。
 だからと言って、陳敏爾がトップへの階段を駆け上がれる保証もないだろう。後ろ盾となっている習主席の影響力次第ではないか。(2019年10月23日)